そうですね。医療者が過去の合併症を引きずっている側面はあると思います。また、腹膜透析は浸透圧を利用して、ブドウ糖液(透析液)に体内の水分や老廃物を移動させて排出する仕組みです。

ブドウ糖液の濃度を調節して一人ひとりの患者さんに合う除水力を引き出すのですが、日本の医療は高濃度ブドウ糖液を使いたがらない傾向があるようです。適正な濃度に調節しないと十分な除水ができず、むくみが起きて、結果、「腹膜透析は除水できない」となってしまうのです。

堀川 医師に「除水できない」と説明されたら、患者はあえてやろうとは思えないですよね。全国を取材していて思ったのですが、森先生をはじめ、腹膜透析に取り組んでおられる医師は地方に多い。都市部に普及していないのはなぜでしょうか。

 ニーズの違いだと思います。昔は日本にも医療が行き渡らない地域がたくさんありました。東北地方もそうでしたが、とくに高齢者は週3回、血液透析できる施設に通うことが物理的に難しかったのです。

やむをえず透析は諦めて、腎機能を守るための保存的腎臓療法で対応していた。つまり、医療が届きにくい地域には腹膜透析のニーズがありました。一方、都市部には早くから血液透析の施設が豊富にあり、必要な患者さんはすぐ透析を始められたのです。

堀川 現在、全国の透析患者およそ34万人のうち、腹膜透析の人は3.1%だそうです。つまり血液透析が圧倒的多数。一方、欧州やカナダでは20~30%は腹膜透析だといいます。森先生が腹膜透析を本格的に始められたきっかけは何だったのですか?