腎臓の機能が低下した患者を生かすための治療、人工透析。堀川惠子さんは、「血液透析」を受け病と闘う夫に寄り添い続けました。しかし病状の悪化により命綱であるはずの透析は耐えがたい苦痛を伴うようになり、夫は透析中止を決断。苦しみながら他界しました。それから7年、透析医療のあるべき姿を求めて取材を重ねた堀川さんの著書『透析を止めた日』が、話題を呼んでいます。取材で出会った森建文さんは「腹膜透析」を推進する医師。その治療法のメリットとは。(構成:菊池亜希子)
情報がアップデートされていない!?
堀川 夫の闘病中、私たちは透析といえば血液透析一択だと思っていました。医師から腹膜透析を提示されたことは一度もなかった。腹膜透析は「危ない治療法」とも聞いていましたし。
森 腹膜透析は40年以上前からある方法ですが、1990年代までは腹腔内に注入する透析液に腹膜を劣化させる糖代謝産物を含む酸性液が使われていて、これが原因で感染症やひどい腸閉塞を引き起こすこと(腹膜硬化症)が多かったのです。
その後、改良が進み、感染症も腹膜硬化症も劇的に減りました。私が腹膜透析を本格的に取り入れたのは2011年で、改良後です。これまで約500人の腹膜透析患者さんを診ていますが、昔のようなひどい腸閉塞を起こした人は一人もいません。たとえ起きても比較的軽度で、2~3週間の抗生剤注射や内服で乗り越えられています。
堀川 それほど腹膜透析も進化していることが、実は医療現場に周知されていない。医療者側の情報がアップデートされていないのでしょうか?