災害に強い医療は高齢者にも向いている
森 11年の東日本大震災です。あの時、宮城県では停電と断水でほとんどの血液透析施設が止まってしまいました。限られた施設をフル稼働し、1回の時間を短縮しながら凌ぎましたが、非常に厳しい状況で。県内のある地域では約160名の患者さんを透析することが困難になってしまい、半数の方に自衛隊機で北海道の病院に移っていただいたのです。
その時に高齢の患者さんが、「まだ家族と連絡もとれないのに、自分だけ安全な場所に行くのはつらい」と訴えました。「災害に強い腎不全医療を作らなければ」と強く感じたのはその時です。
しばらくして、震災後の混乱状態のなかでも、腹膜透析の患者さんは、自宅や避難所で透析液のバッグを吊り下げながら自身で透析できていたことを知りました。セルフケアができる腹膜透析こそが災害に強い医療になると感じて、すぐに行動を起こしました。
腹膜透析とは
自宅や外出先、高齢者施設などで、自分で、それが難しい場合は家族もしくは訪問看護師の助けを借りて行います。自身の腹膜をフィルターとして、腹腔に注入した透析液に体内の余分な水分や老廃物を移動させて体外に排出する透析法。治療開始にあたり、カテーテルを腹部に埋め込む手術を受けます。
毎日、自身でカテーテルから透析液を腹腔に注入・排出します。透析中の痛みはほとんどありません。腹膜透析には以下の2つがあります。
CAPD(連続携行式腹膜灌流透析)
高いところに置いたバッグから高低差を利用して透析液を腹部に注入。一定時間、体内に滞留させた後に下に置いたバッグに排出することを1日2~3回(個人差あり)繰り返します。1回30分程度。
APD(自動腹膜灌流透析)

APD(自動腹膜灌流透析)
専用の機器を使い、透析液の注入、滞留、排出を自動で数時間かけて行います。夜の睡眠中に行えば、生活リズムを変えずにすむ。インターネットでデータを医師に送信できる最新機器もあります。