イラスト:霧生さなえ
この年齢まで、頑張って生きてきた。家庭を切り盛りし、よく働いた。なのに、「老後は悠々自適に」というささやかな夢さえ叶わないとは! 主婦も、働く女性も、お金の悩みに変わりはないようです。中川聖子さんの場合、夫の定年後にお金の悩みが深くなって…(「読者体験手記」より)

みんなどの家もやりくりしている

年金の受給時期を繰り下げる人などいるのだろうか。もちろん、メリットはわかっている。70歳まで待てば相当な増額になるらしい。私は人並みに65歳で国民年金の受給を開始して、いまは夫婦で月に24万円ほどをもらっている。しかし本音のところは、60を過ぎてすぐ、もう繰り上げたい繰り上げたいと日々悩んでいた。

その頃、4歳上の夫は完全にリタイアした。定年後、夫はシニア向けのアルバイトのようなことをして小遣い稼ぎにしていたのだが、それもやめたら急にガクッと生活が苦しくなった。しかし、収入が減ったからといって、別に日々の生活は変わらないのである。孫や親戚づきあいにかかるお金、車の維持費などの出費も減らせず、月に30万円ほどは出ていった。

夫は、稼ぎもないのに家計への配慮がまったくない。「これも出せ」「あれも出せ」と当たり前のように言う。子どもたちは、一緒に出かければ食事代も遊興費もすべて親が支払うもの、と涼しい顔。収入が減ったなりの生活を送る、というのが非常に難しかった。

当時、私には蓄えが少しばかりあった。といっても結婚生活でコツコツ貯めた、200万円にも満たない額である。しかし毎月5万円ほどの赤字を埋めていたら、とうとう2年で底をついた。

そして、本当にお金がなくなった。こんなことは、結婚してはじめてだった。いままで苦しいと思うことはあっても、夫のボーナスなどで食いつなぐことができた。働こう、と急に思いついてはみたものの、ずっと専業主婦だった私には、この年齢で社会に踏み出す勇気が出ない。

私は悩んだ末、夫にお金がない、と言った。あの人が、この人が、と知り合いの名前を次々挙げて、「私も同じように繰り上げ受給がしたいのです」と。そうすれば5万円くらいもらえて、赤字が補えるのだ、と。

「ダメだ!」と夫は即座に言った。

「いまは長生きをする時代だ。ちょっとでも受給額を減らされるなんて、一生の損だ。65歳までもう少しだ、我慢しろ。みんなどの家もやりくりしているんだから」

夫はさらに、「自分名義の預貯金は、1円たりとも崩さない」とも言った。「あればあるだけ使っちゃうぞ」。

結局、何時間も説教をされた挙句、一銭も出してはもらえない、という結果に終わった。夫に相談すると、いつもこの終わり方。私は、もうどうしてよいかわからなかった。

家計のやりくりが大変、とちょっと知人に漏らしたら、「なければないなりに暮らせばいいじゃない」と軽く言われた。

「みんなお金がないないって言うけど、結局何とかやれてるもんじゃない。最後はダンナさんがちゃんと出すってことヨネ」

もう誰にも相談できない。