(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
今年も大相撲五月場所が盛り上がりを見せています。そんななか、「今の十両や幕下以下を見渡すと、のちの横綱や大関を期待したくなるような若い力士が次から次へと出現しています」と話すのは、NHKで1984年から2022年まで、その後ABEMAで今も実況を担当している元NHKアナウンサー・藤井康生さんです。そこで今回は、藤井さんの著書『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』から一部引用、再編集してお届けします。

北海道出身の元野球少年は話術の達人となる

北の富士さんを語れば1冊の本になるぐらい、皆さんにお話ししたいことは山ほどあります。話の広がりは、まさに芸術です。

しかも北の富士さんが語る昔話には、その情景を浮かびあがらせる技があります。ご本人が、おそらく意識をしない中での技能です。ここでは北の富士さんの入門の頃の話をします。

謙遜家です。冗談でしか偉そうなことは言いません。まだ北の富士さんが九重親方として、千代の富士や北勝海の師匠だった頃です。

私はある時、北の富士さんの生い立ちから現在までの物語を読んでいました。そこにはこんなことが書いてありました。

〈中学時代は軟式野球部でした。卒業が近くなり、北海道の野球の名門校、北海高校や、旭川南高校などいくつもの高校から誘いがありました〉。その話を北の富士さんに向けたことがあります。