北海道を毎晩思い出していた
藤井「出羽海部屋での生活には、すぐに慣れましたか?」
北の富士「北海道を毎晩思い出しましたよ。食べる順番がやっと回ってきたら飯もないし、寝るところも油くさい汚い布団でね。稽古場の上がり座敷の板の間に寝かされて寒くてねー。もう最初の晩から泣いていましたよ。
やはり、生まれ育った北海道の楽しいことばかりが目に浮かぶよね。夏は川で泳いで冬は山でスキー。勉強はせず遊んでばかりいたから楽しかった。それを思い出すと帰りたいよ。歩いてでも帰りたい。でも海があるから無理だよね。東京の相撲部屋生活では遊べないと思うとつらかったねえ。まあ3〜4年経ったら、少し遊びを覚えてきたけどね(笑)」
北の富士さんが初めて上京した日、昭和32(1957)年1月7日は、実は私の誕生日です。北の富士さんが上野駅に到着したのが早朝でした。私も、その日の早朝に岡山県の児島という田舎で生まれました。
北の富士さんに初めてその話をした時、「えっ!?そうなの? へー、奇遇だねえ。縁があったんだねえ」。その言葉も忘れません。
※本稿は、『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(発行:東京ニュース通信社、発売:講談社)の一部を再編集したものです。
『大相撲中継アナしか語れない 土俵の魅力と秘話』(著:藤井康生/発行:東京ニュース通信社、発売:講談社)
大相撲アナとして、1988年から2022年まで本場所中継を担当した元NHKアナウンサー・藤井康生。
昭和・平成・令和にわたって角界を見守ってきた唯一のアナウンサーだからこそ語れる、大相撲の魅力とその秘話を余すことなく紹介。