気がつくと消えた孤立感
麦巻の頭痛は治った。鈴によると、大根をかじることは薬膳の一種なのだという。薬膳とは、食材の持つ効能を生かして体調を整える食事のことである。
鈴は90歳になるものの、今も心気充実。居候の青年・羽白司(宮沢氷魚)が用意する薬膳が効果をもたらしているらしい。少しでも体調を良くしたい麦巻も薬膳を始める。団地暮らしも決めた。
それまでの麦巻は自分の人生を「ずっと曇でときどき雨が降るような人生」(第2回)と思っていた。砂を噛むような日々である。
だが、薬膳という体へのメリットもある趣味が生まれたことにより、暮らしに楽しみが生まれた。家での食事はもちろん、職場に持参する弁当も薬膳にした。
それより大きかった変化は鈴、司との交流である。気がつくと孤立感が消え、毎日の生活に潤いがもたらされていた。司は薬効があるというトウモロコシのヒゲのお茶などをお裾分けしてくれた。麦巻も梅シロップなどを分けた。賃貸マンション暮らしのころは考えられなかった。
鈴にすき焼きなどをご馳走になることもあった。その誘い方がうれしい。遠慮する麦巻に対し、鈴は「すき焼きは大勢で食べたほうがおいしいじゃないの」と笑い、気を使わせない。