「新しい自分になった」
同じ第2回。別の場で麦巻が我が身の不運に打ち明けると、鈴はこう言う。2人で蒸したサツマイモを食べながら、ミルク紅茶を飲んでいたときである。
「これまでの自分と比べるから、しんどいんじゃない? こう考えたらどうかしら。新しい自分になったんだって」
生きるヒントに違いない。建設会社より規模が遥かに小さくなった新しい職場も新しい麦巻には合っていた。代表の唐圭一郎(福士誠治)は恬淡としているが、スタッフには気を使う。麦巻が薬膳を実践していることを知ると、薬膳カフェでの歓迎会を企画した。今や絶滅寸前の社員旅行も催した。第3回のことである。これもスタッフへの配慮である。
このドラマの大きな特徴の1つは登場人物たちが病人である麦巻を特別視しないところ。同時代を生きる仲間の1人として見ている。
団地の面々に限ると、それぞれがハンデや傷を負っているせいでもあるだろう。鈴は高齢である上、1人になることを恐れているようだ。司は赤ん坊のころに父親が蒸発したため、自分にも無責任な血が流れていると信じ、家庭を持つことに臆病になっている。
第1回から出ていた司の友人・八つ頭仁志(西山潤)は過去に5年間の引きこもり生活を送った。今も人と接するのが大の苦手だ。八つ頭とファミレスで出会い、やがて結ばれる反橋りく(北乃きい)も家族関係に悩んでいた。
このドラマはそんな個々のネガティブな状況をことを深刻に見せない。まるで当たり前のことのように淡々と描く。観る側だって大なり小なりハンデや傷を背負っていると考えているからだろう。