川井梨紗子さん(左)と川井友香子さん(右)(撮影:本社写真部)
「世界選手権の3位決定戦で勝った瞬間、とにかくほっとしました。」(友香子さん)
本日4月5日放送の『情熱大陸』に出演する川井梨紗子さん。今年2月に、『婦人公論』で、妹の友香子さんとインタビューに答えてくれていました。元女子レスリング選手の母・初江さんとレスリング学生チャンピオンの父・孝人さんの間に生まれた二人。二人のレスリングへの思いとはーー(構成◎粟野仁雄/ジャーナリスト 撮影◎本社写真部)

※東京五輪延期決定前のインタビューです

「友香子、下がっちゃダメ。我慢!」。2019年9月20日、カザフスタンで開かれたレスリング世界選手権の女子62キロ級3位決定戦。スタンドではすでに東京五輪内定を決めた姉の川井梨紗子選手が、母・初江さんと声をからしていた。妹の友香子選手は北朝鮮の選手と熱戦を繰り広げ、12-1のテクニカルフォールで勝利。感極まった友香子選手は両手で顔を覆う。姉妹で東京五輪出場が決まった瞬間だった。


「ママ」と呼んで怒られて……

友香子 世界選手権の3位決定戦で勝った瞬間、とにかくほっとしました。目標の金メダルは逃しましたが、最低限の目標である東京オリンピック出場権獲得は達成したので、安堵の気持ちが強かったです。前日に行われた3回戦でキルギスの選手に負けてしまった時は、絶望的だと思っていました。

梨紗子 私も、正直、もう駄目かと思った。でも運よく敗者復活戦のチャンスが巡ってきて……。姉妹で五輪という夢を叶えることができた。いつもは海外の大会が終わったらすぐに飛行機で帰るけど、フライトの関係で時間ができたので、スーパーでケーキを買って、母と3人でホテルでささやかにお祝いしました。

友香子 ケーキ、おいしかったね。

梨紗子 私がレスリングを始めたのは小学2年生の時。父に「試合に出てみないか」と言われて、軽い気持ちで男女混合の大会に出たのがきっかけでした。それまで練習なんてしたことがないから、当然男の子に負ける。あまり覚えてないけど、私はすごく悔しがったそうです。それで、「勝ちたいからやる」、と「金沢ジュニアレスリングクラブ」に入ることに。

友香子 梨紗子はもともとスポーツが好きだったよね。トランポリンとか習っていて。

梨紗子 昔から運動が大好き。走るのも速かった。でも友香子は……。

友香子 運動は嫌い(笑)。梨紗子と違って手芸などの遊びが好きでした。本当はピアノとか女の子らしい習い事をしたかったな。レスリングは姉がやっているし、母も教えているので、なんとなく始めた感じ。

梨紗子 道場では、母は「先生」。「ママ」と呼ぶことは禁じられていました。でも幼い頃は時々、「ママ」と呼んでしまって、怒られることも。他の子は試合で負けると応援に来ていたお母さんのもとへ駆け寄って泣いていましたが、私たちはそれができない。子ども心につらかった。

友香子 そうだね。でも母には、わが子だけ贔屓していると思われてはいけないという気持ちもあった。母は私たちには厳しく指導していたと思います。特に礼儀作法や物を大事にすることを叩き込まれました。「大事にすればマットが味方になってくれる」と。そういえば、梨紗子はお母さんと交換ノートでやり取りをしていたよね。

梨紗子 そう。道場ではなかなかコミュニケーションが取れないからと、交換ノートを作って思ったことを伝え合っていた。練習でつらかったこと、試合で悔しかったことを書いて。そうしたら母は「期待してるから厳しくしているんだよ」って。

小学6年の時、全国大会の33キロ級で2位に入ると、全国大会で優勝したいという気持ちが強くなり、地元の中学校へ進学後もレスリングを続けることに決めました。中学はレスリング部がなかったので、美術部に。週3回は道場で、それ以外は友達のいる美術部で楽しく過ごした。

友香子 梨紗子の卒業と入れ替わりで私も同じ中学校に。私は部活に入らず、レスリングの練習のない日は家に帰って寝てたかな。(笑)

梨紗子 家ではレスリングの話は一切しなかったよね。喧嘩はたくさんしたけど。

友香子 もうレスリングはやめて社会人をしている一番下の妹がいるんですが、その妹と3人でね。原因は漫画の貸し借りとか。(笑)