「お金のおかげで、私は顔も知らない読者の方に助けてもらえている。お金の大切さは、ここにあると思うんです」(原田さん)

 

原田 対価、そうですよね。たとえば大工さんに家を建ててもらったとして、原稿を渡して「お支払いはこれで」というわけにはいきませんものね(笑)。

出版社が私の書いた原稿を本にして売ってくれて、それを書店さんで買ってくださる読者の方がいるから、出版社にも書店さんにも私にもお金が入る。そのお金で私は大工さんへの支払いができる。

こういう循環を可能にしているのがお金です。労働と労働を交換する非常に優れたツールであると言えるかもしれません。お金のおかげで、私は顔も知らない読者の方に助けてもらえている。お金の大切さは、ここにあると思うんです。

鈴木 お金を循環させることで知らない人に助けてもらえたり、助けたりできる、ということですね。言い換えれば、お金は持っているだけでは幸せにはなれない。『月収』の中に、働かなくても月300万円の収入がある鈴木菊子さんという女性が登場しますが、お金があって幸せかというと、全然そうではない。

原田 ええ。お金があれば何でも手に入るというわけではないんですよね。

鈴木 一方で、月4万円の年金で暮らす乙部響子さんの生活は、カツカツで苦しいばかりかというと、それも違います。年金収入だけではやっていけないから、不足分を補うためにミントを育ててお金を稼ぎ始めてみると、そこには命を育てる楽しみがあり、育てた命を手にした人が喜んでくれるという満足感もある。

結局、幸せというものは、その人が人生で何を優先させるか、労働とどう向き合うかによって決まる部分のほうが、ずっと大きいということなのですね。