
概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
ロシアが新たなスパイ組織を設立して、欧米で工作活動を活発化させている。ウクライナを支援する欧米への対抗策と見られる。他国の市民をロシアの工作員として勧誘するなど、徐々にその実態が明らかになっている。日本も含めて、警戒する必要がある。廣瀬陽子・慶大教授、小谷賢・日大教授を迎えた4月16日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。
新スパイ組織ロシアの暗躍
戦場の外から混乱狙う
「ロシアは欧米と直接戦えないので、裏から欧米の政治や社会に揺さぶりをかけることを考えている。新たな組織の存在をほのめかすことで、欧米に警告を発している」=小谷氏
「ロシアのウクライナ侵略がうまくいっていないことの裏返しだと思う。軍事力でウクライナを御せないので、ウクライナを支援する国々から混乱させようとしている」=廣瀬氏
伊藤米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは2月、ロシアの新たなスパイ組織が対外工作活動を展開していると報じました。情報機関のロシア軍参謀本部情報総局(GRU)とロシア連邦保安局(FSB)を再編した組織で、ウクライナ侵略のさなかの2023年に発足したとされます。①破壊工作や暗殺工作、②欧米の企業や大学への潜入、③外国人工作員の勧誘や訓練、の三つの任務があり、欧米の情報当局関係者はロシア語の頭文字からSSDと呼んでいます。ゲストの小谷さんによると、ロシアもこうした組織が存在することを暗に認めています。

ウクライナ侵略が長引くなか、ロシアは前線で人の死を軽んじるような戦術をとっており、ロシア軍は多くの死傷者を出しています。継戦能力も怪しまれるなか、戦場以外でも危険な工作に従事する人間をさらに確保しようとするプーチン大統領の冷徹さは、私たちの想像を超えています。欧米各国はウクライナ侵略後、大使館員として赴任していたロシアの情報機関員を国外追放処分にしましたが、彼らはロシアに帰国せず、東欧の親露国セルビアに移り、引き続き活動していると、ゲストの廣瀬さんは紹介されました。セルビアがロシアの諜報の拠点になっている現状に驚かされました。
吉田英国で3月、ロシアのためにスパイ活動をしていたブルガリア国籍の男女のグループが有罪判決を受けました。英BBCによると、ロシアに批判的なジャーナリストの拉致や殺害などを計画していたといいます。グループに指示を出していたのは、ドイツの電子決済会社幹部だったオーストリア国籍の男で、指名手配中のこの男がロシア側と接触していました。

日本でスパイと聞くと映画の世界のように感じますが、実行役として有罪判決を受けた男女は素人に近い人間だったといいます。ロシアは、SNSなどを通じて、他国の市民を実行役としてリクルート。そして、練度を高める訓練をほとんどしないまま、犯行を実行させるといいます。ゲストのお二人が指摘されたように、他国の市民を利用するのは、使い捨ての駒のように扱えるからです。摘発されるのは実行役にとどまり、ロシアとのつながりをたどることは容易ではありません。指示役の男については、ロシアが欧米の金融制裁をかいくぐり、資金を調達するために接近したとも言われています。ロシアは、こうしたネットワークを世界に広げていると見られており、日本も人ごとではありません。
