イマジネーションを広げて

僕は中学の3年間、柔道部に入っていたんだよ。これがすごく楽しかった。一人っ子だったから、寝技なんかをすると、じゃれ合って遊んでいるような感じがしたんだね。

受け身を覚えてからは投げられるのも面白かった。きれいに投げられてパッと見上げると、勝った相手が嬉しそうな顔をしているの。それが自分も嬉しくてね。観客が喜ぶことをしたいというのは、その頃からあったんだね。

それから、共稼ぎでカギっ子だったから、一人で遊んでいろんなものを見ているのも好きだった。母親がやっていた飲み屋があった通りが遊び場。精肉店に青果店、自転車屋さんに美容室、洋品店、ラジオ販売店に煎餅屋さんまで……。

それぞれにいろんな人がいて、そして通りにあった映画館の中にはまさにドラマがあって。たまに飲み屋で手伝っていると、機嫌が悪そうな人もおとなしそうな人も、飲めばどんどん陽気になっていくのを見ていたものです。

俳優っていうのは、基本的には自分が体験したことから想像して芝居を作っていくわけだけど、経験していないことでもいかにイマジネーションを広げられるかという点では、そうやって子どもの頃からいろいろなものを見てきたことが、俳優としての僕を作っているんだと思う。