
子供のために知恵をしぼった英語のレッスン風景が、温かく思い出される…(写真:stock.adobe.com)
時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは東京都の60代の方からのお便り。小学校低学年の頃、母親に近所の教会で英語を習わせて欲しいとお願いしたところ――。
「オッハイビー」
60年近く前になる。私が小学校低学年の頃だったろうか、近くの教会で、子供たちに英語を教えていると聞いた。私も英語を習いたくて、母に通わせてくれとせがんだ。しつこく言い続ける私に、母は仕方なく教会に問い合わせに行ってくれた。
だが、そこで英語を習うには、家でも親が教えなければならないと言われたようで、「ママには無理」と断られた。私は納得できなくて、ねだり続けたように思う。
しばらくしたころ、母は薄い教本を片手に持ち、私と3歳下の妹に向かって、「英語の勉強をしましょう」。予想もしなかった母の言葉に、私はワクワクが止まらなかった。
社宅の6畳の和室で、対角線上の向かい合わせに妹と私は立たされる。2人同時に歩き出し、すれ違うところで止まるように指示された。そして「2人が出会ったら、こうやってあいさつするのよ」と、母は手を上げてお手本を示す。
「オッハイビー」「オッハイエー」
その後に「ハーアーユー」と続いたような気がする。