『熊谷陣屋』の義経、大先輩2人と

夜の部の『熊谷陣屋』は、義経の思いを汲んでわが子を犠牲にした熊谷次郎直実の物語です。これまで〝四天王〟という源義経の家臣役で、100回くらい舞台に出て勉強してきたので、義経はいつかやりたいお役でした。それを今回、つとめさせていただけるのは、本当に光栄です。

中村隼人さん

義経という大将の格を大事にしながらも、熊谷という大武将の心を気遣える、懐の深さをにじませることができたら。片岡仁左衛門さん、中村歌六さんという大先輩がお2人も出演される舞台で、柱となるお役をさせて頂ける。怖いですが、先輩たちの胸を借りたいです。

義経が、石屋の親爺弥陀六を見て、自分が3歳の時、命を助けてくれた恩人弥平兵衛宗清と見破り、「爺よ」と呼びかける場面がありますが、そこでは1人の少年に戻る。そういう人間らしさも大事にしたいと思います。

『熊谷陣屋』の義経は2020年の暮れ、南座の顔見世興行で、代役を勤めたことがあります。代役を言われた3日後が本番でした。台詞は全部入っていましたが、細かい動きを坂東巳之助兄さんにお伺いしました。動きがなく、座って話すだけで人間の大きさを出すのは、難しかったです。今回、御大将としての覚悟を抱き、演じたいです。