一人で背負わず主役を
今は、いただいた仕事を全力でこなしたい。1つでも多く、1カ月でも早く、先輩方から芸の継承をしたいという思いと、歌舞伎を観たことがない、観ようとしているけれど何から観ていいか分からない人たちの、歌舞伎を観る〝きっかけ〟になることができたらと考えています。
『べらぼう』で僕を知ったから、お客様が歌舞伎に来てくださっているとは思ってないです。歌舞伎以外の仕事をするときは、「歌舞伎に戻ってこられる」という甘えは捨てています。でも、外の仕事をすることで、歌舞伎を客観的に見ることができるようになりました。年月をかけて計算され尽くされていると実感します。
演出方法や演技方法、舞台の使い方、衣裳…。立廻りも歌舞伎は、動きが少ないほど大きく見える。 周りが動く。そこは商業演劇とは逆です。僕は立廻りに関しては、2023年の舞台『巌流島』(佐々木小次郎役)や時代劇でも、随分やらせてもらい、それが武器でもあります。
僕は舞台『巌流島』で共演した(宮本武蔵役の横浜)流星を見て、「彼みたいにはできない」と思いました。 本当に宮本武蔵が乗り移ったごとく、楽屋でもストイックで、「俺の背中を見て、ついてこい」っていう座頭だった。 アクション、芝居とも手を抜かない。僕はちっちゃい頃から先輩たちに「不器用だ」って言われ続けてきたので、適材適所のみんなの中で、周囲に頼ってやろうっていう心持ちです。
昨年はスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』で主演 (市川團子とのダブルキャスト)をつとめさせて頂きましたが、1人の力は限界があるので、僕1人で背負おうとしていないです。 結局、舞台は足し算で、周りの人に助けてもらってこそ、いい作品ができる。特にスーパー歌舞伎は名脇役が揃っていたので、ひたすら周囲に頼って、自分が決めなければいけないところは決める。いいお手本がいっぱいいらっしゃる環境で幸いでした。