まったく以て状況を理解しようとしない

「お前が来たって役に立たねーだろ。耳が遠くて先生の話は聞き取れねーし、トイレまでの介添えだってできねーんだから」

父から引導を渡されても、

『実際に介護した人は葬式では泣かない』(著:こかじさら/双葉社)

「じゃあ、誰が付き添うのよ」

はいはい、私が付き添いますけど。

まったく以て状況を理解しようとしない。

「病院までの送り迎えも私がするわけだし、病院からも、高齢を理由に付き添いをお願いしますって言われてるんだよ。なのに、90過ぎたあなたが行ったら病院だって困るでしょ」

ここまで言われ、さすがに病院の付き添いは諦めたようだが、喧嘩相手の父がいないと退屈なのか……。頻繁に、「買い物に連れてって」と義姉に電話を掛けているようで。父の診察や検査のない時間帯を見計らって自宅へ戻ると、冷蔵庫はいつもにも増して食品が溢れている。