桜木 その頃から私は父を「パパ」ではなく、「たけちゃん」と呼ぶように(笑)。母の介護に関しても、「たけちゃん、デイサービスは週に2回以上でもいいんだよ」と、友だちとしてアドバイスするようにしています。彼も、友だちの言葉なら、さらっと聞き流せるんですね。
安藤 素敵な距離感です。
桜木 たまたま今、お互いにそんな関係が心地いいだけで、この先どうなるかはわかりませんけれど。今はできるだけ両親の穏やかな生活が続くように祈るのみです。老いたからといって親との距離感を急に縮めると、いいことないような気がして。
安藤 実際に何かトラブルが?
桜木 両親がいっとき、妹の家からスープの冷めない距離に引っ越したんですよ。でも、そこでの暮らしは1ヵ月しか続かなかったんです。
安藤 たった1ヵ月……。
桜木 よかれと思ってのことでしょうが、妹が父の生活にあれこれ口を出し、父はそれが鬱陶しかったようで。
安藤 老いたとはいえ親にもプライドがあるし、自分たちの生活スタイルがありますからね。
桜木 なので、私はできるだけ平行線のまま、端から見たら少し冷たい長女として、その時々の状況に抗わずやっていこうって。ほんの少し近づいたり離れたりしながら、距離感をはかっていけたら。実際には近づきすぎないように距離を保つのが難しいわけですが、わが家は両親の家までどんな交通手段を使っても5時間かかるので……。
安藤 なるほど、何かあったときにジタバタしてもしょうがないと思える距離。
桜木 ええ、電話をかけるくらいしかできません。今までは物理的に離れていることが、精神的な距離を保つためにもちょうどよかったんだと思います。とはいえ今後は月単位で状況が変化するだろうな、と思っているところです。