オチに悩んでM-1を見返した

――執筆作業は大変でしたか?

はい。最初は気負って、昔から好きだった中島らもやチャールズ・ブコウスキーの作品を読み返したんです。そうしたら、「憧れ」というのは自分にできないことをやっているから生じる気持ちなんだ、ということを再認識しました。背伸びしても仕方ない。自分に書けることを書こうと前向きに諦めてからは楽になりました。

そもそも私が「作家になりたい」と思ったのは、小学校の夏休みの宿題の絵日記を、クラスのガキ大将に代筆させられたことが始まりです。「俺、文章とか書けないから、全部考えてくれ」と言われて、ガキ大将の家族構成や夏休みの予定を全部聞き出し、矛盾が生じないように「この日に花火大会に行って、朝顔はこの日に植えて、なかなか花が咲かなくて心配するようなドラマを起こそう」とか(笑)。実は私の物書きとしての原点は創作だったんです。

――それでは、辻褄を合わせるのが得意だったんですね。

そのはず……と思っていましたが、登場人物のモデルや主人公の生い立ちは実在の人を参考にしているので書き進めやすかったものの、物語の「締め」にとにかく苦労しました。最初は、最高に盛り上がるラストを書きたい! と意気込みました。私の作品は会話の場面が多く、自分も会話を書くのが大好きなので、執筆中はだんだん漫才の台本を書いているような気分になり、最後は大爆笑で袖にハケられたら……と。

そこで、過去の『M-1グランプリ』など漫才の映像を沢山見返しました。そうしたら、まずキャッチーなつかみがあり、笑いのピークが中盤過ぎにドカンときて、オチは静かに収束して終わるものが多かったんです。それから、小説家の友人にも相談しました。直接聞くのは恥ずかしいから、共通の友人を介して、「小説の終わりってどうしたらいいの?」と馬鹿みたいな質問を(笑)。返ってきた言葉は、「終わりたいところで終わればいい」。かっこいいですよね。これでようやく肩の荷が下りました。

『愛がぼろぼろ』(著:爪切男/中央公論新社)書影
『愛がぼろぼろ』(著:爪切男/中央公論新社)