読んでニヤニヤしてほしい
――“美容エッセイ”がきっかけ、とはどういうことでしょうか?
「創作小説を書いてみませんか」という依頼はずっとあったのですが、先ほども言ったように自信がないのでずっとお断りしていて。それまでのエッセイでは、人生のつらかったこと、しんどかったことを笑いに昇華して、読む人を楽しませたい一心で書いていました。
でも、美容エッセイに関しては、化粧水やシートマスクで変わっていく自分が嬉しいとか、もっと健康になりたいとか、今まで隠していた素直な気持ちを曝け出せたんですね。そして今までは「過去」のことしか書いてこなかった私が、はじめて「今」を書いた作品でもあったんです。じゃあ今の自分の気持ちに素直になって、やりたいことって何だろうって考えたとき、それが創作小説だったんですね。
――ほかの登場人物もモデルがいるのでしょうか?
主人公の広海がよく行く駄菓子屋さんの、耳の不自由なおばちゃんは実際にいました。広海がそうだったように、親父に殴られてつらいとか、学校で嫌なことがあったとか、おばちゃんの前でたくさん愚痴を吐き出していて。今思えば自分勝手な話ですが、当時の私にとって唯一心を開ける大人でした。
ゴブリンが惚れ込んでいるデリヘル嬢の鶴さんは、今まで私が風俗で出会った女性たちの集合体です(笑)。広海と徐々に仲を深めていく鰻北斗・南兄妹にはモデルはいませんが、名前は『ウルトラマンA(エース)』の主人公たちから拝借しました。この二人の名前についてのゴブリンのコメントがとても気に入っていて。実際に読んでニヤニヤしていただけたら幸いです。
『愛がぼろぼろ』(著:爪切男/中央公論新社)
僕が住む町の外れに、変わり者の太ったおじさんが住んでいる。
学校では不審者扱いされていて、
僕もふざけて「ゴブリン」なんてあだ名をつけてしまった。
悪いことをしたと思ってる。
だってゴブリンだけなんだ。僕の頭を撫でてくれるのは。
お母さんは家を出て行っちゃったし、
お父さんは毎日僕を殴るから――。
少年と中年のくだらない日常が、心の傷の在処を教えてくれる。
自らの過去を投影して描いた、悲しくも笑顔になれる、
自分だけの愛を探す物語。