爪切男さん
『愛がぼろぼろ』を上梓した爪切男さん(撮影:本社・武田裕介)
自身のままならない恋愛経験を綴った私小説『死にたい夜にかぎって』でデビューした爪切男さん。以降、ドラマ化されて話題となった『クラスメイトの女子、全員好きでした』や、美容を始めてから結婚までを描いた『午前三時の化粧水』など、エッセイを次々に上梓してきました。『愛がぼろぼろ』は著者初めての「創作小説」。父親の暴力に耐える「僕」が、町の外れに住む変わり者のおじさん、通称“ゴブリン”と出会い、成長していく物語です。(取材・文:書籍編集部 撮影:本社・武田裕介)

前編「爪切男さんが初の創作小説を刊行。きっかけはまさかの美容にはまったこと?「執筆中は漫才の台本を書いているようだった」 はこちら

たった一人の肉親だから

――執筆を終えて、改めてエッセイとの違いはありましたか?

これまでのエッセイに親父のことは何度も登場させてきました。ただ、読む人にあまりシリアスに捉えてほしくなかったので、「鉄拳制裁」とか「スパルタ教育」という表現で、昭和のギャグ漫画みたいな雰囲気を目指していました。よく殴る人だけど実はちょっといい人、みたいな。

今回、自分でもびっくりしたのですが、「フィクションである」ということが、逆に私を素直にさせてくれたんです。このキャラは自分がモデルではあるが、自分そのものではない、という大義名分が安心感を与えてくれたと言いますか。

広海は、「しつけ」と称して暴力を振るう父親をはっきりと嫌い、憎んでいきます。エッセイではそんなことは絶対に書かなかったのに、自然とそういう風に筆が進む自分に対して、「やっぱり私は親父のことを恨んでいたんだ」と、新たに発見した気持ちでした。