効果は高いが負担も大きい治療

では、どんな治療を施すのかですが、慢性と急性で考え方が違います。

前者では、通常は治癒をゴールにはしません。分子標的治療薬という特効薬に相当する薬を使って、大きな副作用なくがんを抑え込むのです。がん細胞が完全になくなるわけではないのですが、服用すれば9割以上の患者さんは症状が消え、急性に移行したりすることもありません。

他方、急性白血病の場合は、ある意味「治るか死ぬか」の状況ですから、強力な抗がん剤によるがん細胞の死滅を目標にします。薬の副作用や合併症で命を落とす可能性もある、患者さんにとってはつらい治療です。そうしたリスクを冒してでも、闘ってもらうしかありません。

急性骨髄性白血病の治癒率が高いというのは、言い換えれば、抗がん剤がよく効くということ。下図に示したように、うまくいけば4回の投与でがん細胞をゼロにできる。闘う意味は、十分にあるのです。

成人男性の場合、体内の白血病細胞を集めるとおよそ1㎏になる。1回の抗がん剤治療で、がん細胞は1000分の1=1gに。これを4回繰り返し、血液中の白血病細胞をゼロにすることを目指す。効果は高いが、体にかかる負担が大きい治療でもある

 

しかし、中にはそうした化学療法では助からない場合もある。総合的にみて、その確率がおおむね50%以上と判断される急性骨髄性白血病の患者には、骨髄移植、正確には造血幹細胞移植を準備します。健康なドナーから、血球を作り出す造血幹細胞が含まれている骨髄液を採取し、患者に移植するんですね。

この場合、患者とドナーの間で、HLAという白血球の型が一致していなくてはなりません。ドナーは、まず4分の1の確率でそれが一致するきょうだいなどの血縁者から探し、該当する人がいなければ、現在約48万人が登録する「日本骨髄バンク」に当たります。
競泳の池江璃花子選手さんの病名公表を機に、バンクへの問い合わせが殺到したというニュースがありました。登録者数が増えるのは、理屈抜きにありがたいこと。ただ、ドナーの体にかかる負担が小さくないのも事実です。

ドナーに選ばれると、4週間ほど前から数回病院を訪れて、骨髄液の採取時に自分に輸血するための採血など、事前準備を行います。骨髄液の採取は全身麻酔で行い、基本的に3泊4日の入院が必要です。軽い気持ちで登録したけれど、あらためてそうした事実を認識し、「やっぱりドナーは無理」と思われる方もいるでしょう。でも、それは仕方がない。あくまでボランティアなのですから、できる範囲のことをお願いするしかありません。

むしろ他者からの骨髄移植がこれほど多い国はない、という事実に注目すべきではないでしょうか。諸外国では、移植が必要なのに、お金がなくてできないのは当たり前。日本ではドナーの準備や手術にかかる費用がすべて患者の公的保険で賄われています。「救える命を救いたい」という善意が数多く存在し、それを形にできる制度がある。素晴らしいことだと、私は思います。