喉が渇いてから水分を摂るのでは遅すぎる
熱中症に至るメカニズムとは?
「熱にあたって体温が上がると私たちの体は発汗し、その汗が蒸発するときの気化熱を利用して体温を下げ、脳を守ります。ところが、体内の水分が不足していると発汗できなくなり、体温上昇を止められません。結果、熱い血液が脳へ流れ続けて、熱中症を引き起こします」
つまり、脱水状態に陥って汗をかけなくなってから水分補給したのでは遅いのです。「喉が渇く前に、“こまめに”水分を摂ることが重要」と服部先生。さらに、睡眠中の脱水症にも警鐘を鳴らします。
「夜中にトイレに起きたくないからと、眠る前に水分を控えるのは危険です。人は眠っていても、呼吸しているだけで一晩に400mLの水分を消費します。ですから夜眠る前に200mL、朝起きたら200mLの水を飲みましょう」
また、日中は適温の室内で過ごしていても、「1時間に1度は軽くコップ1杯(約100mL)の水分を摂ってほしい」とのこと。
「その際、緑茶やコーヒーなどのカフェイン飲料は利尿作用があるので不向き。水分補給には水か麦茶が最適です」
ただし、一度に大量の水を飲むと、脳が「洪水が起きた」と認識し、排水しようと利尿作用を発動するので要注意。あくまでも、こまめに少量ずつがポイントです。
脱水予防には、体内に水分をどれだけ溜められるかもカギになります。その役割を担うのが筋肉。
「筋肉は“貯水タンク”です。筋肉量が少ない高齢者は体内に水分を溜めにくいため、体液量が少なく、体温調節機能が低下します」
調節機能が低下する年齢には個人差がありますが、一般的には60歳を意識するとよいそう。
「還暦を過ぎたら“常に少し脱水気味である”と認識して、こまめな水分補給を心がけましょう」
筋肉量を維持するには、ウォーキングが効果的なようです。
「ただし1日8000歩前後までに留めてください。1万歩は歩き過ぎです。高齢者を対象にした臨床試験では、『1万歩を超えると、かえって老化を促す』との結果が出ています」
さらに「加齢に伴って暑さ自体を感じにくくなるので、熱中症のリスクを自己判断するのは禁物です」と服部先生。自身の感覚に頼らず、気温や湿度から「暑さ指数(WBGT)」を導き出す熱中症計を傍らに置いて、その場の状況を判断しましょう。