「人に尽くす姿勢」に感銘

<戸田さんがやなせさんに初めて会ったのは30歳の時。テレビアニメの初回収録のスタジオだった。戸田さんのデモテープを聞いたやなせさんが「戸田さんの声でいきましょう」と、アンパンマン役に指名したのだ>

やなせ先生との思い出はたくさんあるんですが、どうしてもいちばん最後にお会いしたときのことが強く印象に残っています。2013年4月、新神戸のアンパンマミュージアムオープニングイベントでご一緒しました。先生は足元がおぼつかなくて、杖をついていたんです。舞台袖で先生が「杖を置いていきたい」とおっしゃったので、私がエスコートすることになりました。

(『あんぱん』/(c)NHK) 

耳が聞こえないから、テープカットの時は、私がトントンと先生に合図しました。「子どもたちにいいところを見せたい。その時できることを精一杯やりたい」ということだったと解釈しています。「尽くす精神」を感じました。やなせ先生は、この年の10月に亡くなられたので、この日が、先生にお会いした最後になったんです。

訃報を聞いた時にはものすごい喪失感がありました。師としてずっと尊敬きた方が今日からいないんだと思うと、アンパンマン役をこのまま続けていいのかとも考えました。

でも、お正月に仙台のアンパンマンミュージアムに行ったら、悲しんでいる私のことなんか関係なく、子どもたちが「アンパンマン!」って突進してくる。それを目の当たりにしたときに、「迷っているのは間違いだ」と目が覚めました。

やなせ先生というすごく大きな傘のなかに自分がいたことを感じました。大きな傘はなくなってしまったけれど、かわりに小さな傘を開いて、みんなでつないで大きな傘になるようにやっていこうと決めたんです。

<『あんぱん』にはやなせさんの人生哲学がちりばめられている。嵩の伯父・寛のせりふとして登場した「人生は喜ばせごっこ」もそのひとつだ>

私が迷ったり、壁にぶつかったりしたときには、先生から「戸田さん、人が喜ぶことをやりなさい」と言われてきました。先生は「みんなが『人生が喜ばせごっこ』と思うようになれば諍いがなくなる」とおっしゃっていましたが、本当にそうですよね。

「誰かが喜ぶことをやるべきだ」と常に心がけています。友達が何かを演じていたり、テレビに出演したりしていたら、その感想は伝えるようにしていますし、小さなことでも1つでも誰かを喜ばせることができたらいいなと思っています。

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