オメガ3脂肪酸
認知症予防に良いと言われる代表格の一つが魚の脂かもしれません。魚に多く含まれる脂(オメガ3脂肪酸)は、脳の健康に良いと言われており、「魚を食べると頭が良くなる」なんていうセリフを耳にしたこともあるでしょう。実際、認知症予防の文脈でも研究が行われています。
例えば、フランスで行われた研究では、平均74歳の1279人を17年間追跡調査しました。すると、血液中のオメガ3脂肪酸の濃度が高い人は、低い人と比べて認知症のリスクが低く、記憶に重要な、脳の内側側頭葉という場所の萎縮が少ないことと相関関係があることがわかりました(1)。これは、オメガ3が脳の老化を防ぐ可能性を示唆する重要な知見です。
ここまで聞けばもう、「明日からオメガ3で認知症予防!」と考えるのに十分と思われるかもしれません。しかし、実際のところはこれで十分とは言えません。なぜなら、例えばこんなストーリーを考えることができるからです。
オメガ3脂肪酸の濃度が高い人は、魚を日常的に食べられるくらい裕福で、高学歴で、よく頭を使う傾向もあった。そして、実はこの学歴の高さやよく頭を使う傾向が認知症リスクの低さや脳の萎縮の少なさに影響を与えていて、オメガ3脂肪酸が高いことによる直接的な影響はなかった。
このような状況でも、オメガ3の濃度の高さと認知症リスクの低さの間には相関関係があるように見えます。しかしこの場合、いくら魚を摂取しても、オメガ3のサプリを飲んでも認知症は予防できないことになります。このように、相関関係(AとBは関係がある)は必ずしも因果関係(AだからBである)を意味しません。
(1)Thomas A, Baillet M, Proust-Lima C, Feart C, Foubert-Samier A, Helmer C, et al. Blood polyunsaturated omega-3 fatty acids, brain atrophy, cognitive decline, and dementia risk. Alzheimers Dement. 2020;17(3):407-416.