それはテレビ番組の海外ロケでの事件である。何カ所かのロケ現場を取材するため、スタッフともども大きなロケバスに乗り込んで移動をくり返した。移動時間はときに一時間以上に及ぶこともある。最初のうちは旅の喜びも加わって、車内でお喋りをしたり車窓からの景色を楽しんだりしてしっかり覚醒しているが、しだいに疲労が溜まっていく。そしていつしかウトウトとうたた寝をしてしまう。

そんな私の寝顔をカメラマンが盗撮したらしい。私には知らされていなかった。ロケを終え、帰国していざ編集作業に入る段になり、念のためと思ったか、スタッフから連絡が入った。

「ロケバスでのアガワさんの寝顔を番組に使ってもかまいませんか?」

同時に動画が送られてきた。私がバスの座席につき、顔を傾けて寝ている顔が映っている。たちまちのけぞった。

「なんじゃ、このババア顔は!」

口角が下がり、瞼の端は垂れ、ほうれい線がしっかり刻まれ、眉間にシワが寄り、首もシワシワである。

「やめてくれー」

断っておくが、スッピン顔ではない。番組用にプロのメイキャップ係さんに丁寧にお化粧をほどこしていただき、髪もきれいに整えてもらったあとの顔である。それでもこれかい!

「どうか使わないでくださいませ」

私が切にお願いしたら、スタッフは残念そうにこう言った。

「ぜんぜんおばあさんじゃないですけど」

しかし、そんななぐさめの言葉も耳に入らないほどショックを受けた。