友の妊娠を喜べる私でいるうちに

そんなころ、長年の友人が懐妊したと知りました。彼女も不妊治療を頑張っていたから、「本当によかった」と思うことができた。けれど同時に、「これ以上治療を続けたら、友人の懐妊すら喜べなくなる日が来るかもしれない。それは人としてどうなのだろう」と怖くもなったのです。友の妊娠を喜べる私でいるうちに、治療をやめよう――。このとき、そう決断していました。

折しも、信頼するプロデューサーが「そろそろ舞台に復帰しないか」と声をかけてくださった。彼は、私が舞台の仕事を休んで不妊治療を始めた決意を尊重し、その後も気にかけてくださっていました。その人からいただいた仕事のお話。すっきりした気持ちで復帰を決め、治療に終止符を打ったのです。

「温かい家庭が必要な子どもがいて、親になって子どもを育てたいと願う夫婦がいるならば、一緒に家族になるという道もある。それは素敵なことなんじゃないか。いつしかそう思うようになっていたのです」

実は、不妊治療を始めて1年半ほどたったころ、夫が「こういう制度もあるんだよ。血のつながりにこだわらなくてもいいんじゃないかな」と、「特別養子縁組」を話題にしたことがありました。

でも私は、「何言ってるの? 私はあなたの子どもがほしいのよ」と思って、その場はそれっきり。ですが、私はいつも彼の判断を全面的に信頼しています。その彼が言ってくれるのだから、と思い直し、自分で少しずつ特別養子縁組について調べ始めました。

そして改めて思い知った、日本には両親不在や虐待などが原因で、乳児院で育つ子どもが大勢いる現実。温かい家庭が必要な子どもがいて、親になって子どもを育てたいと願う夫婦がいるならば、一緒に家族になるという道もある。それは素敵なことなんじゃないか。いつしかそう思うようになっていたのです。

「特別養子縁組のことをもっと知りたい」と彼に伝えたのは、提案から半年ほどたってから。まず、特別養子縁組を支援する団体の説明会に夫婦で参加してみました。そこでは2組の親子が経験談を話してくれましたが、印象的だったのは、2組とも、血が繫がっていない親御さんとお子さんがとても似ていたこと。笑い方や仕草、醸し出す雰囲気が、親子でそっくりなのです。素敵だな、と思いました。その半面、私たちにできるだろうか、と不安も膨らんだように思います。