キッチンは2畳と狭いながらも、知恵を働かせて料理を楽しんでいる(撮影・井上孝明/講談社)

 

掃除も料理もグンとラクに

正直なところ、狭い賃貸マンションに住み替えるのは、都落ちのような、自分がかわいそうみたいな気持ちになるんじゃないか……という不安が私の心のどこかにありました。でもね、実際に住んでみたら、そんなことは一切なかった。むしろ快適で、気持ちも明るくなりました。

前の家に比べれば、ほんと狭いですよ。3人の共有スペースである6畳ほどのリビングには大きなテーブルを置けないため、私が以前仕事で使っていたパソコン用デスクを活用しています。3人で食事するにはちょうどいい大きさ。お互いの距離が近いので会話もしやすいのです。

藤野さんの著書『生き方がラクになる 60歳からは「小さくする」暮らし』講談社

家が狭いと掃除もラク。ちゃちゃっと掃除機をかければすんじゃう。前の家は二重サッシの窓が5枚もあって、窓拭きはお手上げ。でも汚れるから「拭かなきゃ」と、いつも心の負担になっていました。今はリビングの窓はひとつだけなので、気づいたらすぐ拭けます。私みたいに掃除が苦手な人は、狭くてありがたいなと思いますね。

さらに嬉しい変化は、以前は掃除などしなかった夫が、ゴミが落ちていたりするとさっと掃除機をかけてくれるようになったこと。お風呂を沸かしたり、洗濯をしたり、食べた食器を片づけて洗ったり、何も言わなくても家事をずいぶんやってくれます。これまで自分を縛ってきた鎖みたいなものが解けて、自然体で生活している様子です。これも暮らしを小さくしたおかげだと思います。

キッチンは2畳しかないので、効率よく料理する工夫をしています。たとえば、調理台と反対側に置いてある食器棚の一部にあえてものを置かず、調理時の作業スペースとして使うなど。

キッチンのサイズに合わせて料理の段取りも変わりました。合わせ調味料を狭い台で作るのは手間なので、煮物などを作る時は油や砂糖を直接鍋に入れています。味も大して変わらないし、このほうがラクで省スペース、洗いものも少なくてすみます。

シニア3人ですから、手の込んだ料理を作る必要はありません。91歳の母は、名前もわからないような創作料理より、煮物やカキフライ、しょうが焼き、八宝菜といった、食べ慣れた、わかりやすい料理を好みます。シニア世代は量も少なくていい。わかりやすいメイン料理に味噌汁など一汁一菜が我が家の基本になりました。

きちんと夕飯を作る回数も、今は週に3回程度。以前は仕事で遅くなっても帰宅後に夕飯を作っていましたが、遅くなった時は「作らなくていいよ」と夫が言ってくれます。だから帰りにそば屋に寄ったり、近所でお惣菜を買ってすませたりすることも。

住まいを小さくしたことで、家事の負担はかなり軽減されました。不便を感じることもない。狭さには意外とすぐ慣れるものですね。結局、家の大きさよりも、どう暮らすかが大切なのだと思います。