税理士として苦い経験に

状況を整理したうえで、私は弁護士やソーシャルワーカーの力も借りるよう助言しました。幸い、母親には十分な現金資産と遺族年金があり、有料老人ホームへの入居が可能でした。

結果的に、母親は自宅を離れてホームに入居し、「かえって気が楽になった」と安堵されたそうです。長女と次女も「母のことは私たちが見守るから」と約束してくれたので、それ以上、法的な争いに発展することはありませんでした。

しかし、現実には、長男と妹たちの関係は修復されないまま現在に至っています。

長男はその後、体調を崩して一時は仕事も辞めていました。再就職したものの、収入は激減して、不動産の年間収入200万円があっても生活していくのがやっと。今回の件は、心の傷だけでなく、経済的な傷も深いものになりました。

今振り返っても、私自身、税理士として苦い経験でしたが、幸いだったのは、今でもこのきょうだい3人とは、それぞれにいい関係を続けられていることです。

長女と次女はたびたび私の事務所へ顔を見せにいらっしゃいますし、長男は今も不動産収入の申告を私の事務所を通じて行っています。

それは自分で言うのもなんですが、相談を受けた際、「これは税理士の仕事ではない」と突き放すのでなく──実際、法律上はここまでお手伝いする義務はありません──私ができる範囲で最善を尽くした結果だと思います。