「嫌なことが起こっても、固執しなければ、結果的に物事はいいように進みますから」(鈴木さん)

伊藤 だから今の苦しみを、「あっ、これは怨憎会苦だな」とか自分で冷静に分析できたら、ちょっとラクになるんじゃないかと思うんです。私もこのことに気づく前は、イライラしたり憤怒にとらわれたりしていましたから。

鈴木 人間誰でも、そういう時はありますよね。

伊藤 シスターでも?

鈴木 そんなに多くはないですが、ありますよ。修道院は共同生活ですから。

伊藤 イラッとした場合は、どうなさいますか?

鈴木 たとえば……、若い人がよく言う「マウント」でしたっけ? 自分のほうが偉いというような態度で我を通してくる人がいたら、「あの人はそういう人なんだ」「そうやって生き延びようとしているんだ」と冷静に分析し、譲れるところは譲ります。

もし、モラルやルールで注意しなければいけないならば淡々と穏やかに伝え、その後は引きずりません。嫌なことが起こっても、固執しなければ、結果的に物事はいいように進みますから。

伊藤 受け入れることも大事ですよね。人生相談でも、姑とか隣人とか上司とか、近くの人とうまくいかない悩みが多いんですが、相手は変えられないから、自分の意識を変えることが基本かなと思うんです。

鈴木 私も長く生きてきて、そう実感しています。でも人は、相手が自分の思い通りに動いてくれることを望んでしまうから、イライラしたり、落ち込んだりするのでしょうね。

伊藤 自分が変わることで、自分のやりやすいほう、ラクでいられるほうへとスライドしていけばいい。

鈴木 そうですね。

伊藤 父はわりとそういう人で、そんな自分の生き方を「ヨタレの法」と言っていました。母はそういう人じゃなかったから、「お父さんはいつもヨタレなんだから」って言ってましたけど。