大人の一線があるから
<愛実は慎重な性格で両親の前では優等生のふりをしている。しかし、思い込んだらまっすぐ突っ走る危うさも持ち合わせている。教師としての自分を強く自覚しながらも屋上に通い、カヲルに根気よく文字を教え続ける。そして、カヲルが学習障害を抱えていることが明らかになり――>
井上さんの脚本は人間描写が丁寧なので、脚本通りに演じていたら自然と惹かれあう感じになりました。恋愛に対して無邪気ではない、ちゃんと大人の一線を持っている2人です。カヲルさんはホストである自分が教師である愛実と一緒にいるということはどうなのかと思ってブレーキがかかる。愛実は、高校生を教える立場である自分は夜の世界と関わったらいけないと思っている。お互いにブレーキを踏んでいるからなかなか関係が進展しないもどかしさはあります。でもそれは、結局「お互いを思っているからこそ」だということが脚本から受け取れる。
愛実とカヲルが子供みたいに無邪気に惹かれあっているほうが物語が展開できると思うんです。でも、どんな場面でも「一線を引かなくちゃいけない」というのが2人の間にある。それが、脚本のト書きやせりふに盛り込まれているわけではないのでブレーキの塩梅が難しくて。でもそれをちゃんと演じないと、愛実とカヲルという人物像が壊れてしまうから、線引きのタイミングは重要だと思っています。監督とは、ブレーキの塩梅をどうするかを話し合いました。