「演じることは楽しい」
楽曲を書くのは自分と対峙することが多い作業。今までは、いかに大森元貴としていられるか自問してきましたし、周りからも問いかけられてきました。だから、「誰かになる」とか「違う形で人生を送る」ことが、非常に興味深くて、そういう意味で、演じるということは楽しい。その場で生まれるお芝居のキャッチボールが刺激的です。
音楽は、自分の言葉を扱うので、自分でいることや、今日自分が何を感じているかがまずいちばんにくる。お芝居の現場は用意してくださった言葉たちがあって、演出がある。音楽は指示する側ですが、演じることは指示される側なのでその違いも感じています。朝起きて、「今日は演技の日だ」と思う時は、気が引き締まりますね。
ただ、たくやを演じている時は、自分を消す作業をしているという意識ではありません。自分に声をかけていただいた意味をすごく考える。モデルのいずみたくさんと同じく作曲をしているからというだけではなく、大きなものを背負わせていただいている感覚でした。いせたくやが、『あんぱん』の登場人物として、どんな歯車になるのかを毎日考えています。
10代から50代までのたくやを演じますが、年齢の幅のある役は初めてで、朝ドラの洗礼を食らっている感じです。純粋でまっすぐな人であることは、どれだけ年齢を重ねても変わらない。ものすごく貪欲でハングリーな部分もあるので、前のめりな感覚も変えたくはない。
たくやはプライベートでは結婚と離婚を繰り返します。それはまっすぐに人を愛したから。恋愛面だけではなくて、嵩にもまっすぐな心で向き合っている。年老いてもまっすぐな部分はそのまま持っているといいなと思っています。