職場環境がよくても辞める「ゆるブラック」の正体
半面、「3年以内に3割(30%前後)が離職」との数字が、25年間で大きく変わったわけではないと知ると、別の疑問も湧いてきます。
なぜなら、この5〜6年は以前に比べ、企業や職場の労働環境が改善傾向にあったと考えられるからです。たとえば、19年に「働き方改革関連法」によって時間外労働の上限規制が(大企業中心に)成されたり、20年以降は「パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)」が施行されたり、といった具合。それなのに、離職率の数値がさほど変わっていないということは、「別の離職要因」が発生しているのではないか……?
まさに、そうした疑問を読み解くキーワードとして、20年以降、「ゆるブラック(企業)」という言葉を世に広めたのが、リクルートワークス研究所でした。
これまでよく言われてきた「ブラック企業」は、おもに労働法規を守ろうとせず、低賃金のままで長時間労働を強いたり、ハラスメントが横行したりするような企業を指しました。ですが「ゆるブラック」は、労働環境に大きな問題はなく、表面的には居心地がよいものの、「ゆるい」職場であるために成長実感が持てないといった傾向のことで、結果的にZ世代など若者たちが辞めてしまう、との懸念も指摘されています。
22年3月、同研究所が大手企業(従業員1000人以上)に入社した入社1〜3年目の社員(大卒以上)に対し、「現在の職場をゆるいと感じるか」を聞いたところ、「(どちらかといえば)あてはまる」が4割弱(36.4%)にのぼったとのこと(『ゆるい職場』/中公新書ラクレ/古屋星斗氏・著)。
また、古屋氏が20社程度、様々な業種の新入社員にインタビューを実施したところ、「ゆるい。社会人ってこんなものなんですね」や「正直言って、余力があります」など「持て余し感」を口にした若者たちが多かったというのです。
こうした声を、「うちの社員は、そんなことはない」や「少し大げさなのでは?」と見る向きもあります。ですが今回、私が24年夏〜冬にインタビューした55人の若者たちからも、少なからず同じような声を聞きました。たとえば、「いまの『楽しいだけ』って感じの『ぬるま湯』な環境に居続けたら、潰しがきかなくなりそう」(ヒカルさん/家電メーカー)や、「先輩を見て、この会社じゃ成長できないなって悟った。早いうちに辞めないと」(タツヤさん/卸売会社)など。