音から色が見える作曲家による大規模な照明演出?
『プロメテ - 火の詩』アレクサンドル・スクリャービン
スクリャービン(1872〜1915)は、晩年になるにつれて作風がどんどん神秘的になった作曲家です。その代表的な作品が、交響曲第5番にあたる『プロメテ - 火の詩』。オーケストラに加えて、ハープ、オルガン、混声合唱、そしてピアノソロが加わった大規模な作品です。
この作品のおもしろいところは、音楽だけでなく、照明演出も試みようとした点にあります。
どんな照明なのかというと、まず照明装置に紐づけられた特殊なピアノが用意され、鍵盤のドを弾くと赤の照明が光ります。ほかにもソ= オレンジ、レ= 黄、ラ= 緑……といった具合に、何らかの音を出すと、それぞれの指定された色の照明が光るんです。
初演では、この作品のために開発された照明と、その色を操作できる特殊なピアノが使用される予定でしたが、残念なことに故障により使用できなかったそう……。しかし、今は電子140キーボードと照明装置を組み合わせることで、その照明を再現することができます。
僕が思うに、スクリャービンは音を通して色が見えていた作曲家だと思うんですよね。この音やハーモニーからは、この色が見える……といった具合に。それが『プロメテ』における色光ピアノの開発に結びついた。
スクリャービンはほかにも、「神秘和音」という、その言葉通り神秘的で独特な響きを醸し出すハーモニーを考案し、自身の作品にも多く登場させています。これも、音から色の見えるスクリャービンだからこそ考えついたものだと思うんですよね。
僕は常々、「偉大な音楽家とは、何か新しいことを思いつき、それを形にして歴史に刻んだ人のことだ」と考えているんですね。スクリャービンも、音と色の結びつきで新たな試みを行った。そういった意味で、「偉大な音楽家」の一人だと思います。