作曲の背景はストライキ?
舞台から演奏者が減っていく珍曲
交響曲第45番『告別』F.J.ハイドン
オーケストラの作品を聴いているはずが、舞台にいる演奏者がなぜか1人ずつ減っていく――そんなコンサートがあったら、おもしろいと思いませんか?
実際にそんな作品があります。ハイドン(1732〜1809)の交響曲第45番『告別』です。第1楽章から第3楽章まではふつうに演奏されるんですが、第4楽章の途中で、どんどん演奏者が減っていくわけです。最後に舞台に残されたのは、ヴァイオリニスト2人と指揮者だけ。
どうしてこんなユニークな作品が生まれたのか。その理由として言い伝えられている逸話があります。それは、ハイドンが宮廷楽長を務める貴族・エステルハージ家の労働環境にありました。
エステルハージ家の侯爵が夏季休暇で別荘に滞在している間、楽団のメンバーたちは家族から離れて、単身でその地に滞在する必要がありました。
しかし、侯爵の休暇が長引き、楽団員はなかなか帰ることができず、家族に会えない状況に……。
そんな状況を憂いて侯爵に訴えようと考えたハイドンが、「早く帰りたい」という気持ちを粋な形で昇華したのが、この作品でした。そのおかげで作品の伝えたい意図は侯爵に伝わり、無事に楽団員たちは自分の家に帰ることができたとか。
直接抗議するのではなく、音楽で意見を伝えることができる。ハイドンの天才っぷりがわかる作品だと思います。
※本稿は、『これが規格外の楽しみ方! たくおん式なるほどクラシック』(石井琢磨:著/KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
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『これが規格外の楽しみ方! たくおん式なるほどクラシック』(石井琢磨:著/KADOKAWA)
「クラシックをもっと身近に感じてほしい」YouTubeの登録者数32万人(2025年6月現在)、アルバム発売の全国ツアーでは総動員数1万人を記録した、今注目のピアニスト石井琢磨氏が解説するクラシック音楽の魅力と新しい楽しみ方。初めてクラシックに興味を持った人が聴くべき音楽家、名曲の魅力など、著者独自の視点で解説。