ほかの人にとっての「ちょっと」が耐えられないことがある

わが家でも、感覚過敏にまつわるこんな出来事がありました。

ある日、2人の娘とともに親せきの結婚式に出席するため、子どもたちもドレスアップして車で会場に向かいました。

『児童精神科医が子どもに関わるすべての人に伝えたい「発達ユニークな子」が思っていること』(著:精神科医さわ/日本実業出版社)

会場に到着したときには小雨が降っていて、車から降りて式場の入口まで2メートルほど歩く必要がありました。

大人からすれば、少し離れた駐車場まで行く前に、子どもたちはここで降ろしてしまったほうが楽だし、入り口までほんの少しの距離だから走ればいいと思ったのですが、長女はどうしても降りたがりません。「絶対にいやだ」と言って泣き出しました。

その日は、長女はノースリーブのドレスを着ていたので、雨粒が腕に直に触れる感覚が耐えられなかったのだと思います。

ところが、その後、後ろから別の車が来たため、同乗していた父が「それぐらい我慢して早く降りろ!」と怒鳴ってしまったのです。

そのひと言で長女はうわーっと泣き出し、パニック(本記事では「パニック」という言葉を、医学的な「パニック症(障害)の発作」という意味ではなく、「感覚過敏や環境の変化などによって一時的に気持ちや行動のコントロールが難しくなる状態」として使っています)のような状態になってしまいました。

私はこのまま無理やり連れて行こうとすれば、ますます状況が悪化すると思い、ほかの家族を先に車から降ろし、長女を乗せて駐車場まで行きました。そして傘を差し、2人で式場へ向かったのです。

この出来事は、感覚過敏を持つ子どもの感じ方がほかの人とはまったくちがうということを、あらためて私に気づかせてくれました。

やはり発達障害の知識がなければ、父のような反応になるのは当然です(その日の父はよく理解できなかったようですが、発達障害のことを知るにつれて徐々にわかってくれるようになりました)。

当時の父にとっては「ちょっと雨に濡れるくらい、たいしたことではない」という感覚でしたが、長女にとってはその「ちょっと」が我慢できなかったのです。わがままではなく、本当に耐え難い感覚だったのだと思います。

発達ユニークな子にとって、「ふつう」に見える環境や出来事が大きなストレスになることがあるのです。