(画:一ノ関圭)
詩人の伊藤比呂美さんによる『婦人公論』の連載「猫婆犬婆(ねこばばあ いぬばばあ)」。伊藤さんが熊本で犬3匹(クレイマー、チトー、ニコ)、猫3匹(メイ、テイラー、エリック)と暮らす日常を綴ります。今回は「女の覚悟──ノーブラ」です(画:一ノ関圭)

今年は異様に梅雨明けが早かった。降ったと思ったら晴れて、ずっと晴れて、またちょっと降ったら、あっけなく梅雨が明けた。

熊本が梅雨明けだった次の日、東京で、枝元ねこちゃんのお別れ会があった。ねこちゃんの人生に関わった人たちが三百人も来てくれた。笑顔の写真と、いっぱいの花、最後にあたしが般若心経を読んだ。ねこちゃん死んだらあたしがお経というのは、ぴんぴんしていた昔からの約束だった。

ほんとは花火を打ち上げたかった。昔、秋田の大曲の花火を見てきて興奮の冷めないねこちゃんが、自分の葬式には花火を打ち上げてほしいと言ったので、安請け合いしちゃったのだ。しかしみんなに真顔で止められたので、般若心経だけ。でもあれは、自分で言うのもなんだが、渾身の朗読、いや、朗読じゃなかったかもね。渾身の交信、だったかもしれない。

くたびれ果てて熊本に帰った。そしてその後、暑い暑い。しばらくは夏だなっていう程度の暑さだったが、そんなんじゃ済まなくなり、毎日天ぷらに揚げられているようで、去年もこうだった、来年もこうだろうと絶望したくなり、なんだか太陽に憎まれているような気もして、まあ、もとはといえば人間(あたしたち)のせいには違いないので、外に出るたびに、人間に生まれて、スミマセンと俯いている。太宰治か。