仕事着の黒シャツじゃだめだ。黒すぎて凹凸が気になる。柄があった方がより見えにくい。その上うんと涼しい生地のやつ。人に会うことなんか考えずにさっと着て、人に会わずに用を済ませ、さっと脱いで暑かったわねえと涼めるやつ。いくらでも洗って洗って洗いざらせるやつ。
カリフォルニアにいたとき、あたしより十歳くらい年上の仲良しがいた。毎日いっしょに散歩していた。
十歳年上というとヒッピー世代。あの頃、彼女は七十代半ばで、そしてノーブラだった。ぽちりと乳首が見えたとき、きゃ―っとあたしは叫びたくなったのだった。年上の女、かっけ―と。
あたしも乳首を出してと思ったが、どうもやっぱりためらいが残る。ヒッピーは強かったなあ、そんな思いを残してあたしがカリフォルニアを出たのが八年前。今、彼女は脳梗塞で倒れてリハビリ中だ。そしてあたしは日本の水にすっかりなじんだ。
日本じゃヒッピーの末裔もそこらにいないし……と言いかけて、いや、いた、いた、いました、ヒッピーの末裔。ねこちゃんだ。でも元気なときのねこちゃんは、おっぱいが大きかったから、ノーブラなんて夢想だにしなかったと思う。
『対談集 ららら星のかなた』(著:谷川 俊太郎、 伊藤 比呂美)
「聞きたかったこと すべて聞いて
耳をすませ 目をみはりました」
ひとりで暮らす日々のなかで見つけた、食の楽しみやからだの大切さ。
家族や友人、親しかった人々について思うこと。
詩とことばと音楽の深いつながりとは。
歳をとることの一側面として、子どもに返ること。
ゆっくりと進化する“老い”と“死”についての思い。