出会い直した現場

<映画『豚がいた教室』以来14年ぶりの共演となったのが、嵩の戦友であり、創作活動の理解者である八木信之介を演じた妻夫木聡だ>

人生で初めて会った、いわゆる芸能人が妻夫木さんでした。『豚がいた教室』は飼育していた豚を食べるかどうか子どもたちが自分で決める物語でした。妻夫木さんは先生役で僕たちに生きる教訓を与えてくれました。『あんぱん』でも八木さんは、やなせさんの思想を反映したような、生きるとか死ぬことへの概念をよく言葉にしています。妻夫木さんとは『あんぱん』の戦争パートで実際に飢餓や、死を感じる空間を一緒に過ごせました。妻夫木さんと出会い直せたのが『あんぱん』で本当に良かったと思っています。

(『あんぱん』/(c)NHK)

嵩にとっての八木さんと同じように、妻夫木さんも僕にとっては、たった一言で救い上げてくれる方。

のぶと同じぐらい八木は嵩を思ってくれていたと思います。八木は何度も嵩に「お前はこれをやれ」と言ってくれます。妻夫木さんとは、八木が嵩に言い続けることで嵩の主体性がなくなっていくという話をよくしていました。アンパンマンを生み出す軌跡の中で、受動的ではなく、嵩から能動的に生まれる何か思いがないとダメだよねと。

第107回で、中目黒の家に八木さんが来て詩集を出版しようと嵩に伝えてくれます。八木さんが家を出て行った後に、嵩が玄関から出てきて、帰ろうとしていた八木に自分でタイトルを提案します。あのシーンはまさに妻夫木さんと2人で、嵩の主体性を考えた上でのお芝居。ちょっと脚本とは変わっているシーンです。

『あんぱん』では、出会い直した人たちがたくさんいました。『あんぱん』主題歌を担当しているRADWINMPSさんもまさにそうで、『携帯電話』のMV(2010年公開)に出演させていただいて以来、お仕事ができていませんでしたが、今回やっと一緒にお仕事できました。今田美桜さんとは映画の『東京リベンジャーズ』シリーズをはじめ、何度も出会い直してきました。

来年で役者人生が20周年になりますけど、その総決算みたいな感覚がちょっとあったぐらいです。「あの時以来ですね」っていうのがたくさんあった。それが改めて財産になりました。