では生き物がプラスチックを体内に取り込むとどうなるのだろうか。

「まさに今それを知りたくて、多くの科学者が研究している最中です。プラスチックはにおいがつきやすく、微生物や藻類が付着すると、エサと間違えていろいろな生き物が食べてしまいます。その影響としては、物理的なものと化学的なものの2つがある。

物理的というのは、食べておなかを壊すとか、内臓を傷つける、詰まってしまうなど。一方、化学的というのはプラスチックに含まれる化学物質が生物にどんな影響を及ぼすか、ということです」と中嶋さん。

プラスチック単体はあまり生体に影響を与えないと言われる。だが通常はそこに酸化防止剤や発色剤、難燃剤、紫外線吸収剤ほか、さまざまな添加剤を加えて製品を作る。その中には食べてもすぐ排出されてしまうものもあれば、体内の脂肪に蓄積する性質のものもある。

人の住んでいない北極の雪や、世界で最も深いマリアナ海溝からもマイクロプラスチックは見つかった。深海生物やくじらから小魚まで、たくさんの海の生物からプラスチックの添加剤は検出されている。世界の食塩ブランドの9割に、マイクロプラスチック片が含まれていたという調査報告もあるほどだ。

「魚介類だけでなく、飲料水や食品、さらに大気中にもプラスチックが混入している。添加された化学物質が確実に人体に入り込んでいるのは事実です。ヨーロッパのデータでは母親の母乳や胎盤に含まれる難燃剤の数値が、赤ちゃんが摂取できる1日の安全基準を超えているといいます。ただそれが、問題になるレベルと言えるのかどうかは、まだ研究段階です」

この問題は、これからさらに国際的な議論を引き起こしていくだろう。

たとえ成人の体に大きな影響は出なくとも、子どもたちの体内に蓄積していけば将来的にはどのようなことが起きるかわからない。人類がプラスチックを生み出したのがたった70年前。環境中にあふれ出してから、まだ1世紀経っていないのだから。

「生態系や人体の健康に対してだけでなく、観光や漁業などさまざまな分野にすでに悪影響が出ています。海洋ごみの清掃にも多額の費用がかかっているので、経済的にも影響は少なくない。人類は自分で自分の首を絞めているといえるでしょう」と、中嶋さんは警告する。