着物は“姿勢矯正装置”だった
(1)帯は骨盤矯正具
私は、呉服屋を営んでおりますが、日々お客様から「着物を着ると、背筋が伸びる」とのことばを繰り返し頂戴します。それは単にマナーや見た目の美しさを意識するからではありません。もっと物理的な構造に理由があるのです。
骨盤は、脊柱(背骨)を支える「土台」であり、左右の股関節と連携して下半身を動かす要でもあります。そのため正しい姿勢を保つためには骨盤が正しく動いていることが不可欠です。
たとえば、骨盤が後ろに傾けば猫背になり、前に傾けば反り腰になります。また、左右にずれることで肩や脚の高さが違って見えたり、O脚やX脚が進行したりします。こうした歪みは、筋肉のつき方にも影響を及ぼし、腰や肩、膝の痛みとして現れてきます。
では、なぜ着物が骨盤を整えるのに役立つのでしょうか?
最大のポイントは、「腰ひも」と「帯」の存在です。着物を着るとき、腰ひもは骨盤の上でしっかり締めます。この締め方は、体を無理に圧迫するものではなく、骨盤を正しい位置に保持してくれるのです。さらに男性の場合は、帯も骨盤の上で巻きますので効果は倍増。
もう1点注目したいのは、お腹の中にかかる圧力である「腹圧(ふくあつ)」との関係です。
腰ひもや帯によって腹部が軽く圧迫されることで、自然と腹圧が高まります。これには、体幹のインナーマッスルを活性化させ、姿勢の安定性をもたらす効果があるのです。女性の帯はウエストのくびれ付近、骨盤よりやや上に巻かれます。これにより骨盤そのものを締める効果は薄いとしても、腹圧をあげる役割は、男性の帯以上に大きいのです。
腹圧のコントロールが、腰椎安定性や姿勢保持に不可欠との考えから、コルセットやトレーニングで腹圧を強化する療法が広く活用されていますが、着物の帯は、「骨盤ベルト」や「コルセット」と同じ役目をはたしてくれるのです。