緊張感が無意識に背筋を伸ばす

(2)着物の直線裁ち

洋服は体の線に合わせて生地を裁断していく曲線裁ちなのに対して、着物は生地を四角形に裁断していく直線裁ち、だからできあがった着物の各部分は、直線、平面になっており、体の線がまっすぐでないとすぐに着物地にシワが寄ります。そのため肩を引き下げ、首をすっと伸ばす姿勢が自然と求められます。

さらに長襦袢や着物の衿が首元に沿って縫い付けられていて、前かがみになればすぐに衿がはだけ着崩れが起こるため、無意識のうちに背筋を伸ばすスタイルを体に覚え込ませるのです。

(3)着物が求める歩行

さらに歩き方も変化し、着物を着ると、裾を乱さないように歩幅は自然と小さくなり、膝を大きく上げたり脚を大きく前に出すような動きは制限されるのです。

こうした歩行姿勢の変化は、股関節や膝への負担を軽減する効果があるとされており、名城大学理工学部の服部友一教授の論文には、「短い歩幅でゆっくり歩けば、関節や筋に対する負担は小さくなり、また体重心の上下運動は小さく、着床時の衝撃も小さく、体重心を上昇させる股・膝の伸展もわずかで済み、すなわち限られた能力で歩行することが可能となる」と書かれています。(服部友一.臨床における歩行分析について.理学療法学.2006;33(4):209.シンポジウム「動作の探究」.)

理学療法の現場でも「歩幅を狭める」「着地を静かにする」といった歩行指導が行われることがありますが、着物は自然に、体に優しい、正しい歩く姿勢を実現してくれるのです。

(4)着崩れを防ぐ所作

また、着物姿で座るときに膝を閉じる、立ち上がるときに膝を使って体を起こす、背もたれに寄りかからずに座るなど、それぞれが体幹の使い方を促す動作であり、正しい姿勢をキープするトレーニングとなります。