文化とは守るものではなく、育ててゆくもの
私が日々使用している硯は、文化財の修復も手がける製硯師・青柳貴史氏(「柳」は正しくは「木」偏に「夘」)によるもので、端渓石を用いた両面硯です。
片面には「五穀豊穣」の意匠が施され、水を張るとまるで田んぼに月が浮かぶように見えるのです。
その月影は、石に内包されていた模様が浮かび上がったもので、私の生まれた日の月と奇しくも同じ形だったのです。
「文化を耕す」という願いがこめられ、「耕田」と名付けられたこの硯を迎えてから、「文化とは守るものではなく、育ててゆくもの」という意識へと変わっていきました。