ブラックユーモア、だけど粋だなって
なお、春町が切腹する36回ですが、その回の台本を僕よりも朋誠堂喜三二役の尾美としのりさんのほうが先に読んでいらして、お会いした際に「読んだ?」って。「まだ読めていないんですよ」とこたえたら「ぐっときたよ…」と。
最後まで筋を通す春町の死に様というか、ただ単に腹を切るという形で終わらせないのが春町らしいなと感じました。
現実世界での死は、当人にとってはそこで終わってしまって、発展していきようがありませんが、大河ドラマの世界では、死の先も話が進んでいく。その意味で、春町が亡くなった後、仲間だった人たちによる弔い方には感情を強く揺り動かされました。
たとえば亡くなった後、蔦屋では春町の本を並べて売りだすっていう、今でいう<キャンペーン>を打ち出すわけです。そこでは蔦重のアイデアで、春町が豆腐の入った桶に顔を突っ込んで亡くなったことにちなみ、桶の中に著書を並べて売り出す。
それってある種のブラックユーモアじゃないですか? でも同時に粋だなって。
春町の「自分の人生を悲しいだけで終わらせないでくれよ」という思いに則って、実際に面白くしちゃおうよって。これが蔦重たちの弔い方なんだな、すごく素敵なお話だな、と感じました。
実は撮影の合間にその回を担当してくださった深川貴志監督から、その「弔い方」のアイデアを耳にして。天国から見ているような気持ちで感動した、といえばいいんでしょうか? 廊下でちょっと涙ぐんでしまいました(笑)。