春町という人間について

春町の登場シーンは、対面した子どもに絵を描いてあげるところでした。

子どもを前にしたら、自然と笑顔になると思うんですけど、チーフ演出の大原さんから言われたアドバイスは「そういった感情の起伏はない方がいい」という意外なもの。

それで感情的にも不器用というか、繊細で、平均的な感情表現ができない人物を意識するようになりました。途中からは演じなくとも、自然とそうなっていったんですが。

春町は、とにかく生きづらさを抱えていた人だったのではないでしょうか。それでいて、最初から最後まで、一貫して生きづらいままの人生を歩んだのだと思います。

僕自身が春町と同一の存在というわけではないので、かりそめではあるかもしれないけれど、「人間社会の中で生きていくのが苦しい」という思いの片鱗を、常に出すようにしていました。それでいてある種の美しさというか、チャーミングさのようなものも、はたから見て感じてもらえるよう、意識して演じさせていただきました。

不器用だっただけに、彼は戯作に出会えてよかったんじゃないかな? 

僕もヘンな人間ですから、役者になっていなかったら大変なことになっていたかも、とたまに思います。だからといって春町に特別なシンパシーを感じるかと聞かれれば…どうなんですかね?

僕の場合、どんな役も等距離で演じている感覚があって、どの役にも一定のシンパシーは感じています。その意味で、どの役も自分と似ていて、どの役も自分とは似ていません。

ただ春町のことは大好きで。自分の中でも、大切な役になったのは事実です。