感動的に作らない 

戦争ものでは、感動的に描かないということも気をつけているんです。戦争を描く人は、戦争反対の意味を込めて作ることが多いと思いますが、感動的に描くと見た人が無意識の中で「かっこよかった」とか「勇ましかった」とか思ってしまう。そう思うことが、無意識レベルでいつしか戦争賛美につながってしまう恐れがある。そこに自覚的でありたい、と常に考えています。 

(『あんぱん』/(c)NHK)

例えば、『あんぱん』では、第54回で出征前の千尋が嵩に会いに来るシーンです。千尋はあの場面が最後だし、「これから出征します」と感動的に描こうとしたら、すごく感動的に描ける。でも、あえて音楽をあまりかけず、映像も煽情的にせずに、引いた形で嵩と千尋を捉えるようにしました。 

<中園ミホさんは「やなせ先生を描くことは戦争を描くこと」と明言していたが、朝ドラという枠で戦争を真正面から描くことは制作チームとしてもチャレンジだった> 

 戦争パートでは、出征した嵩の軍隊での生活を11週と12週で連続でやりました。やなせたかしさんの自伝でも書かれていましたし、軍隊の暴力性はやらないわけにはいかなかった。ただ、月曜日だけにしようという配慮はしました。月曜日から金曜まで軍隊の理不尽な暴力が表現されたら見る人も辛いですし、撮る側もつらい。 

ただ、軍隊の暴力性をしっかり描かないと「逆転しない正義」に至らない。月曜日だけは暴力をこれでもか、と描きました。朝だし、心配はしましたが、視聴者の皆さんがちゃんと受け止めてくださった。きちんと描けば見てくださると勉強になりました。