(『あんぱん』/(c)NHK)
今田美桜さんがヒロインを務める連続テレビ小説『あんぱん』(NHK総合/毎週月曜~土曜8時ほか)。子どもたちの人気者・アンパンマンを生み出したやなせたかしさんと、妻・暢さんの夫婦をモデルとした物語です。<朝田のぶ>を今田さん、<柳井嵩>を北村匠海さんが演じています。逆転しない正義を体現した『アンパンマン』を生み出した嵩とのぶの物語はまもなく終わりを迎えます。過酷な軍隊生活、戦争が残した心の傷。『あんぱん』で描いた戦争について、チーフ演出の柳川強さんにお話を伺いました。(取材・文:婦人公論.jp編集部 油原聡子) 

 のぶは当時の「当たり前」 

<柳川さんは、『鬼太郎が見た玉砕~水木しげるの戦争~』『最後の戦犯』など数々の戦争ドラマを手掛けてきた。『あんぱん』の戦争パートでは、豪の戦死をめぐり蘭子がのぶに激昂した8週、嵩の軍隊生活と戦地での日々を描いた11~12週を担当した。朝ドラは『花子とアン』以来となる> 

 『あんぱん』ヒロインののぶは、戦争前は教師として軍国主義を教える立場。戦後は価値観が逆転し、葛藤します。演出する上では、「当時の人の視点」を大切にしていました。のぶは軍国主義に前向きに携わった人物で、戦争に加担した側。現代から見たら、嫌悪すべき存在。でも、それはあくまで今の視点なんです。制作者が今の立場で描くのはやっぱり違うような気がするから、できるだけフラットな視点で、当時の人の感情に寄り添って描くことを意識していました。フラットな視点を持つことで、たとえばカメラ位置等々も違ってくると思っています。 

「カメラ位置は監督の哲学である」とたくさんの映画監督が言っています。僕もその通りだと思っているんです。視点に自覚的であることで多分、人物を撮るときのアングルやカメラとの距離感が違ってくるような気がします。 

 今田さんに演出する上でお伝えしたことはひとつです。「当時の普通の女の子の考え方だと思って演じてください」、それだけです。今の時代を生きている人が軍国主義の少女を演じる場合、「悪人」「普通じゃない」と感じてしまうと思います。でも、当時はのぶが普通だった。むしろ9割5分の人間がのぶのような考え方。蘭子の方が珍しい。 

 のぶを演じる上で「普通」だと思っていないと、どうしても「これで大丈夫かな」と迷ってしまう。そうすると不安になる。疑問を持たないように安心してやってもらうことがいちばん大切でした。「軍国少女のヒロインだけれど、戦後に価値観が変わるキャラだから、そこは自信を持って真摯に演じてほしい」と伝えました。