八木と蘭子のシーンで意識したのは…
<嵩の戦友である八木信之介(妻夫木聡)と蘭子(河合優実)が惹かれあっていくシーンは「映画のよう」だとSNSでも話題になった。空間の見せ方やカメラの撮り方が普段の『あんぱん』とは違っていた>
第108回で、蘭子は自分の部屋で八木に思いをはせます。この時、部屋には豪の半纏もかかっています。蝉の声と風鈴の音を響かせました。このシーンは第38回に放送された、蘭子の下駄の鼻緒が切れた回想シーンと重ねています。
蘭子と八木のシーンでは、ワンカットで見せることを意識しています。あまりカットは割らず2人の空気感の変化を意識的に見せた方がいいと考えたんです。それが映画のような画面に見えるかもしれません。
<第107回では、八木が柳井家を訪れ、嵩に詩集を出版しようと提案する。この時、カメラは上から撮影していた。実はこの撮り方にはある意図が込められていたという>
あの場に蘭子がいて八木の様子を見ていたわけではないのですが、蘭子の存在を感じさせるような目線を意識して、あえて蘭子がいる2階の部屋の廊下から撮影しました。嵩は詩集『愛する歌』を出版できることになりましたが、そのきっかけは、蘭子が八木の会社に嵩の私家版の詩集をさりげなく置いておいたこと。『愛する歌』出版の構図は、八木と嵩の上に蘭子の存在があり、それで出版が成立したということを感じさせるためにも、蘭子の部屋からのアングルで撮りました。
この翌週に、八木が蘭子の部屋を訪れるシーンが放送されました。この時も2階の廊下から2人の傘を撮影したので、視聴者にとって上から見るアングルが初めてにならないように前もって出しておこうということも意識していました。
<SNSで話題になったのが、第112回。八木が蘭子の家を出ると雨が降っていた。蘭子が八木を追いかけて、傘を差し出すと、八木は傘を持つ蘭子の手に自分の手を重ねた。その後、カメラは傘の下にる2人を上から撮影したため、SNSでは傘の下で蘭子と八木がどうなっているのか想像する人たちが続出した>
撮る前から、傘の下で2人がどうなっているかは視聴者の方の想像に任せますと決めていました。抱き合っているという想像をしても、見つめあっているだけだと思ってもいい。ただ、スタッフ・キャストの間では「あの傘の下は抱き合ってるよね」「いやいや、見つめ合ってただけです」と意見が割れました。妻夫木さん含め、「抱き合ってた派」の方が少しだけ多かった印象がありましたね。
八木と蘭子の2人は、嵩とのぶという逆転しない正義を生み出した夫婦がこだわる戦争体験に対する思いへの補完、もしくはその心理的背景とし描く、という位置づけをしていました。最終週の八木と蘭子の戦争に関するエピソードではその部分は特に意識しましたね。