阿部サダヲと大森元貴の芝居のうまさ

<物語の要所要所で重要な役割を担ったのが阿部サダヲさん演じた「ヤムさん」こと屋村草吉だ。謎のパン職人として登場し、一時は朝田石材店に同居。戦時中に姿を消したが、戦後東京でのぶたちと再会した>  

(『あんぱん』/(c)NHK)

第115回で、草吉が東京の柳井家を訪れたときに、のぶたち三姉妹と羽多子さんに「老けたな」と言ってしまい、それぞれに「ごめんなさい」と謝るシーンがありました。あのシーンはいろんな人から「アドリブでしょう」と言われたのですが、実はセリフ通り。

阿部さんは脚本通りに話しているし、演出の要望も全部取り入れた上で、それでもアドリブに見えるぐらい一回一回の芝居が生っぽくて芝居に見えない。ちょっとひねって「あ、こんなふうにやるんだ」とこっちの思惑以上に面白くなる。一種の天才役者としか言いようがないです。

<作曲家のいせたくやを演じたのが、人気3人組バンド「Mrs. GREEN APPLE(ミセスグリーンアップル)」のボーカル・ギター、大森元貴さん。朝ドラ初出演だ> 

大森さんは、ミュージシャンというより、あくまで1人の役者さんだと感じました。セリフを言うことに慣れてないはずなのにナチュラル。「普通の人」としてそこにいる。これは、役者にとっていちばん難しいことなんです。 

大森さんは嵩や健太郎との男同士のシーンでは、やりとりがジャズのようです。「ああ言ってきたらこう返す」と予測不能な即興ができる。本来、芝居は即興のように見えなければいけないのですが稽古を重ねるうちに演技が固まってしまう。でも、大森さんは全く固まらない。「この音がきたから、こうなる」というジャズ感覚。一緒にお芝居をしている北村さんとか、高橋文哉さんも面白かったと思います。大森さんは何回芝居をやってもその場にあった返しをする。才能なんだろうと思いました。