東区で繰り広げられたヒグマ出没事件の一部始終

ヒグマは体長1m60cm、体重158kg、5〜6歳の若い雄だった。この日の詳細を時系列で追ってみる。

2021(令和3)年6月18日、午前3時30分頃。最初の目撃による110番通報は、札幌市東区北31条東19丁目、札樽道近くの路上だった。

『ドキュメント クマから逃げのびた人々』(著:風来堂/三才ブックス)

その後、JR札幌駅方面へ1kmほど南下。午前5時50分頃、同市東区北19条東16丁目の住宅街の路上で、いつもよりも早めにゴミ出しをしていた70代男性を後ろから押し倒し、爪で腰にケガを負わせる。続いてすぐに、北に1条移動したヒグマは、同様に住宅街の路上でゴミ出しをしていた80代女性を後ろから押し倒し、爪で背中やひじにケガを負わせた。

午前7時頃、東区北31条東15丁目、開店前の大型ショッピングセンターの入口前をうろつき、次にヒグマはショッピングセンター前の大通り、東15丁目屯田通りを渡り、午前7時18分頃、住宅街で安藤伸一郎さん(当時44歳)を襲った。

その後は、ひたすら北東方面に住宅街を斜めに進み、走る車もかまわず丘珠空港通りを横切る。道路を渡った先には、塀が張り巡らされた陸上自衛隊丘珠駐屯地が広がっている。行き場を失ったヒグマは、塀沿いを左方向へ向かって走った。

ちょうど、パトカーが頻繁に注意を呼びかけていたこともあり、駐屯地の隊員たちが正門を急ぎ閉めていたところだった。あと10〜20cmで門が閉まるというそのとき、走ってきたヒグマがその隙間に素早く鼻先と片手を入れてこじ開け、慌てる隊員を押し倒し負傷させた。そのままヒグマは隣接する丘珠空港に侵入。午前8時頃、管制官が滑走路上にヒグマを発見したため、午前中に飛ぶ予定だった道内線の航空機複数便が運休した。

時間的に登校時間にも重なったため、東区・北区の複数の小中学校が休校となり、すでに登校した生徒は屋内待機となった。新道東駅の出入口のシャッターは1カ所を除き閉められた。

このとおり、東区は前代未聞の大混乱となったわけだが、立場を逆にしてみると、本来、身を隠しながら移動する臆病な性質のヒグマは、相当なパニック状態だったと想像できる。

70代男性が襲われた東区北19条東16丁目の住宅街(写真:『ドキュメント クマから逃げのびた人々』より)
ヒグマが侵入し、横切っていった丘珠空港(写真:『ドキュメント クマから逃げのびた人々』より)
(写真:『ドキュメント クマから逃げのびた人々』より)