鎌田 講演会でも、「高齢だし、その時まで生きていないから」とおっしゃる方がいるのですが、そうじゃない。「お子さん、お孫さん、その先のひ孫さんたちの大問題なんですよ」とお話しします。
南海トラフに沿った地域は、太平洋ベルトと呼ばれる日本有数の工業地帯で、新幹線や高速道路など主要な交通インフラも通っている。働く人たちの多くも被災しますから、日本経済に与える影響は甚大なものになるでしょう。国の試算によれば、地震が起きた初年度だけで被害額は292兆円。日本の国家予算の2倍以上です。
岸本 初年度だけで……。
鎌田 被害の範囲や深刻さを考えると、経済活動への影響は長期にわたるはず。今年6月に土木学会が公表した数字では、約20年間で被害総額が1466兆円と試算しています。
岸本 年々、少子化が進んで労働人口が減っていますよね。そこへ長期にわたる災害のダメージが加わったら、日本はどうなってしまうのでしょう。
鎌田 だからこそ、準備が大切。一つには、津波に備える防波堤の建造や避難経路の整備、橋や道路、建物の耐震補強といった、国と自治体が予算をつけて行う防災事業があり、急務といえます。
また個人として、古い木造建築物の建て替えや補強を進めることも大切でしょう。南海トラフ巨大地震の場合、そうした対策によって、死者の8割、経済的被害の6割を減らせるという試算もあるんですよ。